- シミュレータ
- 教育ツールの開発
- 小児看護学
「未来をきり拓くのは“創造的な看護力”」
日本看護学教育学会
共催セミナーレポート DAY2
-小児看護学-
ご覧いただきありがとうございます。京都科学 企画課のアラハタでございます。今回は、日本看護学教育学会 第33回学術集会より、共催セミナーの内容をレポートとしてまとめました。
後編として、「小児看護学」をテーマに、京都光華女子大学の守口先生と森ノ宮医療大学の黒岩先生が発表された内容をご紹介します。
*この記事は「看護師等養成所 教材カタログ2024年度版」に掲載の記事をWEB用に書き起こしたものです。
日本看護学教育学会 共催セミナーレポート DAY2
「臨地実習での課題とギモンから生まれた“幼児の身体診察シミュレータ”」
-ありそうでなかったモノがカタチになるまで-
京都光華女子大学 健康科学部 看護学科 守口絵里先生
開発背景1
京都光華女子大学では病棟実習に際して、事前に技術演習と実習前技術チェックを行っています。これらにシミュレータを活用したバイタルサイン測定の演習が含まれていますが、ある悩みを抱えていた守口先生。
守口先生
「演習と実習で感じるギャップをどうしたらよいのか……」
これまでの演習では、新生児バイタルサイン測定シミュレータと7~10か月児のモデル人形を利用していましたが、対応している測定方法が実際の手法とは違うことや測定するふりしかできないことが問題でした。
実習はそれまで学んできた知識・技術を統合する場だからこそ、実習イメージをつかめるようなシミュレータが必要だということ。基本的なノウハウは成人や新生児と同じはずなのに、幼児のシミュレータは選択肢がかなり少ないこと。これらが合わさり、ありそうでなかった新しい幼児のバイタルサイン測定シミュレータの開発に至りました。
開発背景2
まずはシミュレータを何歳想定で作るべきかを検討しました。実習環境によって受け持ち患者の年齢や疾患が異なると推測し、文部科学省が発表している看護系大学数のデータから調査対象施設をどこにすべきかを定めました。
その結果、このシミュレータを必要とするであろう施設として私立大学が圧倒的に多かったことから、京都光華女子大学をモデルとし、小児看護実習を履修した学生284人を対象に調査を実施しました。
実習で受け持った患者の年齢や疾患はどうだったか。体温・血圧等はどんな体位で測定したのか。実習を終えて気づいた事前に練習しておきたかったことなど、実習を経験したリアルな声を集めました。
守口先生
「こうして誕生したのが、ありそうでなかった新しい幼児のバイタルサイン測定シミュレータ
“幼児の身体診察シミュレータ” です。」
「対象理解のための幼児疑似体験ツール開発」
森ノ宮医療大学 看護学部 看護学科 黒岩志紀先生
開発背景1
私たちは様々な経験を通じて多くのことを学びます。いくつかある経験の中で、特に行動に特化した経験を「体験」と呼び、体験をさらに細かく分類すると直接体験と間接体験、疑似体験の3つになります。この中で、黒岩先生は疑似体験のある点に注目しました。
黒岩先生
「高齢者の疑似体験は商品化されるほど普及しているのに、なぜ幼児の疑似体験できるツールはないのか?」
今回ご紹介する2歳児体験キットは、この疑問をきっかけに開発された幼児の疑似体験ツールです。
開発背景2
黒岩先生は次の4つの理由から2歳児に着目しました。
黒岩先生
- ほとんどの大人は幼児期健忘により3歳までの記憶がないこと
- 身体バランスは不安定なのに活発だからよく転ぶこと
- 大人には理解しづらい第1次反抗期があること
- 言語習得が未熟で身体での自己表現が多いこと
これらを基礎に作られた2歳児体験キットは、大人の身体で2歳児の身体的特徴を体験することが可能です。
そして、森ノ宮医療大学 IPE(多職種連携教育)で合同ゼミナールを開き、完成した2歳児体験キットを用いて疑似体験を行いました。看護学科と理学療法学科、作業療法学科から学生がそれぞれ参加し、疑似体験から課題抽出を試みたところ、ズボンの着脱やスプーンでボーロを口に運ぶ動作等で普段との違いを感じ、2歳児の身体的特徴に気づきが見られました。
黒岩先生
この2歳児体験キットは、幼児を対象にするコメディカル教育に活用することはもちろん、小児の理解推進に向けて、父母をはじめとする一般家庭向け教育の普及も目指しています。
まとめ
今回は前編・後編に分け、「実践的なシミュレーション学修とOSCE」そして「新しい教育ツールの開発」という2つのテーマをお届けしました。
新型コロナウイルスが流行し、教育・臨床現場は苦しい時期もあったかと思いますが、そんな中から生まれた新しいアイデアはまさに、“未来をきり拓く創造的な看護力”の表れだと感じました。
発展し続ける看護学教育に、これからも目が離せません。