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新人看護師研修向け シナリオシミュレーションの“いろは”①
こんにちは、WEB管理担当のウエハラです。
新型コロナウイルスの感染拡大で、看護学生の臨地実習や新人看護職員研修等の中止による学習機会や経験値の不足が大きな課題となっています。
先月、姫路メディカルシミュレーションセンター ひめマリア (以下、ひめマリア)の田中先生、松村先生を講師にお招きして、「新人看護師向けのシミュレーション教育」に焦点を当てたセミナーを開催いたしました。
全3回に渡ってその内容を深堀りします。
新人看護師研修向け シナリオシミュレーションの“いろは”
①医療シミュレーション教育の理論的背景 田中 宏治 先生(★当記事です)
②ひめマリアによるシミュレーションの実施過程 松村 直 先生
③ひめマリアによるシミュレーションの事例 松村 直 先生
オンラインセミナー概要
日時:2021年7月20日(火)
講師:姫路メディカルシミュレーションセンター ひめマリア
エグゼクティブマネージャー 田中 宏治 先生
チーフトレーナー 松村 直 先生
主催:株式会社京都科学 西日本営業部
“医療シミュレーション教育の理論的背景”
田中 宏治 先生
もくじ
パイロットのお仕事
空を飛ぶだけが仕事じゃない!?
田中先生: 「シミュレーション」というとどんなイメージをもたれますか?一般的には、トレイン・フライトなど運輸業界を思い浮かべる方も多いかと思います。ここで少し、航空業界のお仕事について触れたいと思います。
パイロットはフライト以外にも様々な業務があるのをご存知ですか? とある航空会社では、月の半分は地上での業務を行っているそうです。地上勤務では、訓練生や機長昇格したスタッフの教育、シミュレーター訓練の企画実施、語学教育など、実は、教育に携わる機会がとても多いんです。これはCA(キャビンアテンダント)も同様です。
では、メディカルシミュレーションの分野では、どういったシミュレーションをしたら良いのでしょうか?
これからご紹介していきたいと思います。
シミュレーション教育の概要
シミュレーションの概念
田中先生:シミュレーションは大きく3つのステップ分けることができます。
- 思考型シミュレーション(デスクワーク・学習型):授業・講義・ゼミ・自習
- 体験型シミュレーション(アルゴリズム・スキル):BLS・採血手技・挿管手技
- 実践型シミュレーション(シナリオシミュレーション):ショック時対応・転倒時初動
シミュレーション教育の構築工学
シミュレーションの“要件”とは?
田中先生:シミュレーション教育では、以下の“受講者要件”と“提供者要件”の双方を満たすことが求められます。
受講者側のそれぞれの要件に対して、目標とプロセスを具体化して、
適切な教授法でシミュレーションを展開する(図1)
田中先生:ここで言う適切な教授法というのは、前述の思考型/体験型/実践型から教育を適切に選択提供する、ということです。「考量と討議」では、受講者と一緒にデブリーフィング(ディスカッション)を実施しましょう。また、提供者側は、教育効果の検証もしっかりと行いましょう。
教育工学の変遷とシミュレーション教育の段階
シミュレーション教育の根底にあるAIDMA理論
田中先生:様々な教育理論の根底にあるのは、1920年に提唱されてから100年もの歴史がある行動心理学“AIDMA理論※”です。“AIDMA 理論” は前述の受講者要件に合致します。
- ガニェの9教授事象(1964;Robert M. Gagne)
- ケラーのARCSモデル(1983;John M. Keller)
- コルブの経験学習モデル(1984;David A. Kolb)
- メリルのID第一原則(2002;Merrill, M.D.)
- ケラーの学習意欲の第一原理(2008; John M. Keller)
- パリッシュのID美学の第一原理(2009;Merrill, M.D.)
【AIDMA理論を基に開発された教育理論】
Attention / Interest:基礎的知識の再確認=学習風土の「定着」
Desire:学習者が希望する学習のコンテンツ化=段階的学習の「自律」
Memory:行動記憶への転化=学習内容の「深化」
Action:実践での検証=学習成果の「展開」
※AIDMA理論とは、マーケティングにおける、消費行動のプロセスに関する仮説のひとつで、「ある商品について、消費者がそれを認知し、購買するに至るまで」の経緯が表された理論。「AIDMA」は消費者の各行動を頭文字で表しており、「Attention」(注意)、「Interest」(関心)、「Desire」(欲求)、「Memory」(記憶)、「Action」(行動)という五つの流れが示されている。
引用(weblio辞書):https://www.weblio.jp/content/AIDMA%E7%90%86%E8%AB%96
田中先生:実際の教育プロセスを表現すると下図の様になります。段階に応じてシミュレーションを挟んでいることがお分かりいただけるかと思います。統合シミュレーションを実施するのは、全ての段階を踏んだ最終段階になります。
シミュレーションのポイント3か条
短く・シンプルに
within 10 minutes→ 10分以内にシナリオをおさめる
1 or 2 events→病態変化は1~2事象まで
No CPR→CPRはしない ※CPRはタスクで学んでおく
田中先生:30分以上に渡るシナリオや、刻一刻と3事象以上の病態変化をする様な(複雑な)多重課題シミュレーションは教育効果を期待できません。上記3か条を意識して計画してみましょう。
難易度を高めようと躍起になってシナリオを複雑にするのは得策ではないということですね。10分以内ということであれば、シミュレーション提供側のハードルも下がりそうです。
ここまでは、理論のお話でした。では、具体例をみてみましょう。
具体例1 心不全患者さんの対応に悩む看護師への指導例
新人看護師
心不全患者Aさんの看護でうまく状況判断ができなかった…
田中先生:このような看護師さんに対して「心不全患者のシナリオシミュレーション」を行うのはナンセンスです。なぜなら、そこには種々の情報・知識・技術が混在しているからです。
まずは、心不全患者Aさんの看護に求められる要素(聴診技術・病態理解・薬剤の理解 等)をひとつひとつ整理してみる
田中先生:抜き出した要素毎に “思考型・体験型シミュレーション”で繰り返し、定着させます。そのプロセスを経て初めて、心不全のシナリオシミュレーション(実践型シミュレーション)に移行します。
「どうして満足のいく看護が提供できなかったのか?」「どこに原因があったのか?」をまずは紐解くというところが、重要なポイントですね。応用問題を解く前に、基本公式を見直す工程によく似ています。
具体例2:60歳代男性 脳梗塞
田中先生:上の図は脳梗塞の患者さんの1年をまとめた例です。様々なイベントがありますが、これらイベントは重ね合わせずに、フェーズで区切ってシミュレーションを実施してみましょう。
それぞれのフェーズに対して
リスクの想定→事象発生→リスク・アセスメント→分析・評価・対策
をPDCAサイクルにのせて実施する
一人の患者さんをテーマにすれば研修計画も立てやすそうですし、フェーズによっては多職種が絡む研修にしてもよさそうですね。
結論
最後に、田中先生に結論をいただきました。
- 現在、医学部・看護部においてシミュレーションセンターは必須の施設。(専門学校・高専でも必須カリキュラム)。また、日本看護協会など職能団体のカリキュラムにも明記されている様に、シミュレーション教育の重要性が証明されています。
- シミュレーション教育は時間や機材、人員確保など手がかかるのは事実です。一方で、COVID-19によって実習やFace-to-faceが難しい時勢となり、今後もその潮流は継続すると考えられます。新しい時代の新しいメソッドとして、さらにシミュレーション教育が加速していくことは明白です。
- 受講者要件と提供者要件がしっかり満たされなければ、いくら良いシナリオを作っても、すばらしいシミュレータを持っていても教育効果を得ることはできません。要件をしっかり満たしましょう。
セミナー前半は、田中 宏治 先生によるシミュレーション教育の概論について詳しくご教示いただきました。
後半は、松村 直 先生から、ひめマリアさんで実際に行われたシミュレーション事例について詳しく見ていきます。
講師紹介:田中宏治 先生
エグゼクティブマネージャー/法人本部副部長 |