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“献体での学修をもっと身近に” 人体模型のNewシリーズをご紹介
新人看護師研修向け シナリオシミュレーションの“いろは”
医療シミュレーション教育の理論的背景 田中 宏治 先生
ひめマリアによるシミュレーションの実施過程 松村 直 先生
ひめマリアによるシミュレーションの事例 松村 直 先生(★当記事です)
ここからは、松村先生からシミュレーションの事例を5つご紹介いいただきます。
“ひめマリアによるシミュレーションの事例”
松村 直 先生
もくじ
松村先生:シミュレーションの3つの段階に沿って、実例をご紹介します。 机上でできるシミュレーションもあるという点に、ご注目ください。
高価なシミュレータや施設環境が整っていなくても
机上や空き病室を使って、シミュレーションが可能
大切なのは 「病院や部署の特質・目標に合わせた教育を実施する」こと
Step1机上(クリティカルシンキング)
事例1-1 「心電図の判読」
- 時間:60分
- 講師:1名
- 目標:12誘導心電図の異常を判読できる・主治医やリーダー看護師に適切に報告できる
流れ
1、事例心電図の提示
2、考察:各個人orグループによるディスカッション
3、報告
このシミュレーションで必要なものは、心電図だけなので
準備も容易で講師も1名で実施することが可能
事例1-2 「カルテからの情報収集 “転院時”」
- 時間:60分
- 講師:1名
- 目標:
・カルテの情報から、患者のリスクを予測できる
・リスクに基づいた観察点を抽出できる
流れ
1、カルテからの情報収集
松村先生:模擬の転院サマリーから情報収集をしてもらいます。ここでは、画像とテキストで提示しましたが、個人情報に留意すれば電子カルテを引用しても構いません。
情報量が多いと学習者が混乱するので
(カルテの)“日数を区切る”といった工夫が必要
2、ディスカッション
松村先生:患者さんのリスクと優先順位を挙げてもらいます。机上でのシミュレーションなので、学習者が納得する観察点や優先順位が抽出できれば終了です。
日ごろ看護師個人が自然に行っている情報収集とリスクマネジメントのプロセスを、集団で踏ませることで「暗黙値」を「見える化する」というところがポイント
Step2:思考と行動の統合
事例2-1 「術前患者のリスク評価」
- 時間:60分~90分
- 講師:1名
- 目標:
・カルテと観察結果から、術前リスクを評価できる
・術前リスクから、術後の観察ケアの優先順位を考察できる
流れ
1、カルテ情報の収集分析
2、術前の観察点の抽出
3、シミュレータを使ったアセスメント
松村先生:カルテ情報の分析によって確認すべきだと思った点について、Physiko等のシミュレータを使ってアセスメントを行います。情報を収集して統合することが目的ですので、ラングやイチロー等タスクシミュレータでも構いません。
4、「術後のケアプラン」の作成
松村先生:カルテ情報と患者さん(シミュレータ)から直に得た情報をもとに、「術後のケアプラン」の作成を行います。患者さんの術後リスクを判断してケアプランが作成できれば終了です。
クリニカルパスが適用されている患者さんでも、「リスクによっては観察のポイントや優先順位も異なる」 という点が重要
事例2-2 「夜勤時の患者転倒時のシミュレーション」
松村先生:多くの病院では、転倒時のプロトコルがあると思います。それを使ったシミュレーションです。
- 時間:60分~90分
- 講師:2~3名
- 目標:
・患者転倒時のプロトコルに沿った行動、観察ができる
・患者転倒時のSBARを用いた報告ができる
流れ
1、事前学習
松村先生:転倒時のプロトコルが頭に入っているかをテストで確認します。
2、シミュレーション
松村先生:夜間、転倒している患者を発見するところから開始します。
松村先生:頭部打撲の可能性のある患者さんを、ストレッチャーの載せる際に、動かしていいのかどうかという判断が求められます。看護師として、どの様に情報収集をすればよいかということについて話し合ったり、資料を確認します。
ポイントは「マニュアルを知っているか」ということと、
それを「実際に運用する」ことは異なるスキルが必要であり、
シミュレーションを用いてそれらをすり合わせる
Step3:思考と技術を実際の現場で行う
事例3-1 「内視鏡室急変シミュレーション」
- 時間:60分~90分
- 講師:2~3名
- 目標:
・有効な蘇生の手技(胸骨圧迫、人工呼吸、コミュニケーション)が実施できる
・内視鏡室の限られた資源での蘇生について考察できる
設定
内視鏡室での麻酔導入後に呼吸停止・心停止となった想定でシミュレーションを実施
(当シミュレーションは当該部署で企画されたものに、ひめマリアが協力しました)
「どこから蘇生用物品を確保してくるか」を含め、実際にシミュレーションで体験して学ぶ
「内視鏡室」で行うシミュレーションの特徴
- 環境:普通の病室と異なり狭い
- 検査に必要な備品はあるが、蘇生用の物品については潤沢に揃っていない
- 対応スタッフ:内視鏡室は、たいてい医師1名看護師1名で対応している(少人数)
- 隣の部屋にも患者さんがいるので配慮しながらのスムーズな蘇生が求められる
松村先生:今回は、診療のない土曜日に内視鏡室の全てのスタッフを招集して実施しました。現場でのシミュレーションは、様々な事に配慮する必要があり、スタッフの負担は大きいですが、教育効果もまた大きいと言えます。
シミュレーションの効果を上げるには
効果を長続きさせる秘訣
松村先生:よく質問されるのは、「シミュレーション教育をやったのはいいけれど、効果が長続きしない。」ということです。これについては、ガニエの9教授法と呼ばれる、効果的な教育研修をする方法論の8番と9番にヒントがあります。
シミュレーションの成果をOJTに採り入れることにより
シミュレーションの効果を持続させることができる
つまり(前述の通り)学習目標は部署目標と合致していることが大切
まとめ
- シミュレーションの実施には、目標立案が重要
- 学習目標によって、シミュレーションの段階を決める。難しくしすぎないことが大切
- シミュレーションが教育効果を上げるには、OJTとの連携が必須
以上、ひめマリアの田中先生、松村先生から、余すことなくシミュレーション教育のいろはをご教示いただきました。ありがとうございました。豊富なシミュレーション事例を参考に、読者の皆様もご施設にあった方法で実践いただけることを願っております。(ぜひ、京都科学までその声をお寄せいただければ幸いです。)
講師紹介
田中宏治 先生
エグゼクティブマネージャー/法人本部副部長 |
松村 直 先生
ひめマリア チーフトレーナー(看護師長) |