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シミュレーション教育 現場からのホンネ
日々、シミュレーションに関わっている現場からの声を、”ホンネ”としてダイレクトにお伝えします。 今回は、京都大学医学部附属病院 総合臨床研究・研修センターの伊藤先生と内藤先生にお話しいただきました。
―こちらは京都科学製品カタログ「新人看護職員研修教材カタログ 2018年度版」に載せきれなかったお話です。
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シミュレーション教育 現場からのホンネ
【前編】どのように「場」をつくるか?※この記事です
【後編】「やってみる」「失敗した」を積み重ねて見出したコツ
【前編】どのように「場」をつくるか?
まずは「安心・安全の場」をつくる
伊藤 シミュレーションにおいて、グループで研修をするとなったときには、自然と盛り上がっていくグループと、なぜかシーンとして楽しく溶け込めないグループがあって、学習者の溶け込みやすさには結構差があります。
「このシミュレーションは面白そうだな、やってみようかな」と引き込むために、自己紹介をしたり、(アイスブレイキングとして)簡単なゲームをしたりして、緊張を解きほぐしています。いくらシナリオがよくても、シナリオの世界に入ってきてくれないとシミュレーションは回りません。
国際的なガイドラインを見ても良い振り返りというのは、指導者が何を喋ったかではなく、「学習者の気づきをどう促せたか。」「学習者がこのシナリオにスムーズに溶け込めたか。」と主語が全部学習者になっています。
学習者主体のセッションをいかに運べるかがファシリテーターであり指導者であると思うのですよね。
もし引き込むことができなかった時には、適切な援助や指導、ティーチングが必要だと思います。指導者はどの方法が良いか見抜いて、できた人にもできなかった人にも体験学習としてシナリオを完成させるように持っていく。それには、かなり指導者の能力が必要だと思うのですが、そこはぜひ、苦労して、うまくいかなかった経験をたくさんして、それを乗り越えていってほしいなと。内藤先生もそんな経験を積み重ねて、今日に至っていると思うのですよ。ですよね、内藤先生。
内藤 ええ、失敗はたくさんしました。(笑)
伊藤 ね、そうなんですよ。
内藤 転職や部署異動をした時って、サッカーでいうアウェーな状態を感じますね。いわゆる、安心安全な場がない状態です。人間は、安心・安全な場を感じて、初めて外に向かって好奇心が向いていくといわれています。
ファシリテーターは絶対に「責めない」
内藤 参加者が見知った関係であっても、必ず緊張を解きほぐしてからシミュレーションをしていきます。たとえ良いシナリオがあったとしても、強い緊張状態では、本人のパフォーマンスも発揮されず、十分な学びが得られないのです。
伊藤 シミュレーション教育の基本は、No blame(責めない)。
先ほど内藤先生が言ってくださったように、安心・安全な場づくりをしないと良い振り返りができないです。
責めないということは、とても大事です。「授業ではできませんでした。」と言うと、「勉強してきていないからだ。」ということになるけれど、シミュレーションでは(すべてがシミュレーションの場で完結するので)そういうのがないはずなんですよ。だから繰り返しになりますけれども、安心・安全な場づくりをしないと良い振り返りができない。
学習者が自分自身で、「ここまではできたのだけど、この部分はちょっと足りなかった」「実際に病棟でこんなことがあった場合には、自分はこうやってみよう」ということが、はっきりと認識できたら大成功です。安心・安全な気づきができる環境を作ってあげることがファシリテーターにとって大事な役割です。
寄り添ったり、持ち上げたり。ファシリテーターは「ムードメーカー」
内藤 急変の場面(安心・安全でない場)では、足がすくんで頭が真っ白になってしまう。でも、失敗が許されるのがシミュレーションなんです。シミュレーションの振り返りでは、学習者に寄り添います。
シミュレーションの振り返りは、基本的には目標に沿って行います。+/Δ(プラス/デルタ)という振り返りの手法では、「”できたところ”と”なおよしにするところ”の二つの視点で振り返りを行います。そして、たとえ目標からは逸れても、学習者からよい気づきを得ている発言が聞かれた際には、積極的に承認をし、次の対策を一緒に確認していきます。振り返りでは、「問いの立て方」が重要となります。ありがちな「お疲れ様でした。じゃぁ、振り返りましょう。どうやった?」という漠然とした質問は、学習者を混乱させてしまうので気をつけたいところです。
一つの質問に対して「この答えを言わないと」と受講者に思わせるのではなく、「気づいたこと、感じたことを何でもいっぱい出してみて、時間は3分、たくさん出せたチームの勝ち!」みたいな感じにすると、ワッと盛り上がります。これが今のアクティブラーニングで、注目されている手法の一つです。乗せかた、雰囲気、それが大事です。
ためになるヒントがいっぱいのインタビュー、まだまだ続きます。
【後編】「やってみる」「失敗した」を積み重ねて見出したコツはコチラ!
シミュレーション教育の効果を高める ファシリテーター Skills&Tips
伊藤先生、内藤先生はこれまでの実践をもとに「シミュレーション教育の効果を高める ファシリテーターSkills & Tips」を出版されています。
シミュレーション教育に関わる方なら、持っていたい一冊です。ぜひお手に取ってみてください。
伊藤 和史 先生
京都大学医学部附属病院 総合臨床教育・研修センター 特定教授
1983年卒、総合内科専門医、循環器学会専門医など多数。大阪府済生会中津病院臨床教育部長などを経て2013年京都大学医学部医学教育推進センター特定准教授に就任。2018 年4月より現職。
内藤 知佐子 先生
京都大学医学部附属病院 総合臨床教育・研修センター 助教
1999年国際医療福祉大学保健学部看護学科卒業。2008年新潟県立看護大学大学院看護学修士課程修了。同年より京都大学医学部附属病院看護部管理室に勤務し、教育担当に。2010年より現職。