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知ってほしい、骨盤臓器脱のこと


画像:桃子アイコン

サリー先生

こんにちは!私は骨盤臓器脱ケアの妖精、サリーよ。みなさんは、「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」って聞いたことがあるかしら?骨盤臓器脱は、女性のおよそ2人に1人が経験するにも関わらず、病院を受診せずひとりで悩んでいる患者さんがとても多いの。今回は骨盤臓器脱に悩む女性のために立ち上がった先生方へのインタビューと、骨盤臓器脱モデルを活用した講義の様子をお届けするわ。

知ってほしい、骨盤臓器脱のこと

前編:もう、一人で悩ませない。~開発者&ユーザー インタビュー~(本記事です)
後編:サリー先生が授業に潜入!



骨盤臓器脱(POP-Pelvic Organ Prolapse)とは?

骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)とは、出産や加齢による骨盤底筋の緩み、生活習慣により、下垂した子宮・膀胱・直腸などが腟外に出てしまう状態。ピンポン玉のようなものが膣から出てくることで気づくことが多い。潜在患者数は500万人とも800万人とも言われているが、認知度の低さや、羞恥心から受診率が低く、治療を受けている患者は年間5~10万人程度に止まっている。

脱3種説明

もう、一人で悩ませない。
~開発者&ユーザー インタビュー~

このような現状を受け、立ち上がったのが静岡県立大学の荒井孝子先生をはじめとする先生方。今回は開発に関わられた荒井先生と福島恭子先生、そしてシミュレータユーザーである太田尚子先生にお話を伺います。

先生3人のポートレート  

左から 荒井孝子先生、太田尚子先生、福島恭子先生


サリー:骨盤臓器脱モデルの開発のきっかけを教えていただけますか?

荒井先生(以下荒井):今回、このシミュレータを開発してみようと思ったのは、開業助産師である堀田さんの「ペッサリーを練習できるモデルがなくて困っている」という一言からでした。この時代においても、未だに多くの女性が痛い思いをしながら自分の体を使ってペッサリー着脱の練習をしているとは想像もしていませんでした。また、骨盤臓器脱は、出産という私たち女性の壮大な出来事の副産物にも関わらず、一般的な認知度が低く、そもそも治療にアクセスできていない患者さんが多くいます。この教材不足、認知度不足の現状を改善したいと思いました。

福島先生(以下福島):入れ歯やコンタクトと同じように、より快適に過ごせるよう自身で装着し管理する道具として、ペッサリーはもっと身近な存在になれると思っています。そのお手伝いができるようなシミュレータを作りたいと考えました。

サリー:医療教育の現場でこれまで「骨盤臓器脱」はどのように扱われていたのかしら?

太田先生(以下太田):助産師の育成課程においては、女性の生涯にわたる支援が目標となっている一方、骨盤臓器脱についてはあまり重要視されてきていなかったように思います。望ましい助産師教育におけるコア・カリキュラムには「更年期、老年期の女性に対するケア」が含まれていますが、具体的に骨盤臓器脱(子宮脱)にフォーカスした文言はありません。教科書でも取り扱いは少なく、教育現場でも骨盤臓器脱の認知度はまだまだ十分とは言えない状況です。しかし、これから社会の高齢化が進む中で、骨盤臓器脱のケアが女性支援の重要な役割を担っていくことは確実なため、シミュレータを用いた教育は非常に意味があると思います。

荒井:看護師や助産師にとって、実際に体験したことのない臓器脱の整復やペッサリーの装着を患者さんに指導するのは、難しいことだったと思います。このシミュレータでは臓器脱の整復、ペッサリーの装着はもちろん、内診や月経カップの着脱まで様々なトレーニングができます。「知識として知っている」と「やったことがある」の間にあるギャップを埋めてから患者さんに臨んでほしいと思います。

冊子を見て語り合う先生たち

サリー:開発時のエピソードがあれば教えていただけますか?

荒井:骨盤臓器脱(子宮脱)モデル Utenaの開発が始まったのは遡ること4年前です。今回の開発では、これまで、腹部触診や導尿・浣腸モデル開発に携わった経験がおおいに活かされました。今回の開発も当時のスタッフを集めていただいたため、円滑な意思疎通ができました。教育に求められる機能を洗い出し、教員側/企業側、それぞれの立場から仕様について議論し、その場で担当者が設計図を書き起こしデザインを固めていきました。初回の試作ですでに完成度が高いものが上がってきており、”良いものづくり”に大切なのはチームの皆がイメージを共有することなのだと、強く感じました。

一方、課題となったのは「この製品をどう使ってもらうか」です。これまでのシミュレータの多くは医療従事者とその教育者のためのものでした。しかしこのシミュレータは「患者のためのもの」でもあるのです。
医療従事者が手技を修得するだけでなく、患者自身がケアの方法を練習する、そしてもっと広くは、骨盤臓器脱の社会的認知度をUPさせるためにどんな提案方法があるか、検討に検討を重ねました。

そして出た案が「骨盤臓器脱がわかる本」です。製品パンフレットでも取扱説明書でもない、「Utenaを使ってほしいすべての人を対象にした冊子」という位置づけで、マンガ、解剖図を交えながら京都科学チームと共に作りあげました。

サリー:医療従事者だけでなく、もっとターゲットを広げた冊子ということで、情報のまとめ方、イラストの見せ方など細部までこだわって作りました。by制作チーム だそうよ。

荒井:そして今年、ついに製品リリースが決まったわけです。

冊子を見て語り合う先生たち

サリー:太田先生は、授業で実際にこのシミュレータを使ってくださっているとのことですが、感想をいただけるかしら?

太田:従来の産科・婦人科系シミュレータは皮膚が固く、膣が再現されていないものが多い印象でした。しかし、このシミュレータは膣があり、手を入れた時の感触が非常に実際に近いです。実際に手技を行う際には不可欠な患者の痛みへの配慮も、このシミュレータなら学びやすいと思います。病態が目で見てわかる、触ってわかるのは、患者さんへの説明にもよいと感じました。

福島:ちなみにこのシミュレータの名前「Utena」はUterine cervix(子宮頚管)+Vagina(膣)からきています。このふたつがよく再現されているのはこのモデルの特長だと思います。

サリー:最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

荒井:骨盤臓器脱はこれまでオープンにされない、知られざる病気でした。しかし、臓器脱は女性の多くが経験することです。どう病状をコントロールし、受け入れ、付き合っていくかをみんなで語ることで、患者さんをひとりで悩ませない社会になることを願っています。

福島:骨盤臓器脱のサポートは女性のQOL改善やエンパワメントにもつながると思います。平均寿命が延びる中、女性のみなさんが健やかな生活を送るサポートができれば幸いです。

サリー:シミュレータ開発を通して、女性支援という社会課題に向き合う熱い思いが伝わってきたわ。わたしももっと頑張らなくちゃ。先生方、ありがとうございました!

次回は、この熱い思いの詰まった骨盤臓器脱(子宮脱)シミュレータを用いた授業の様子を、サリー先生に潜入取材してもらいます。次回の公開は 10月11日。お楽しみに!

取材ご協力
静岡県立大学 看護学部看護学科/看護学研究科
教授 荒井 孝子 先生 (左)
教授 太田 尚子 先生 (写真中央)
講師 福島 恭子 先生 (写真右)


[画像 骨盤臓器脱(子宮脱)モデル Utena]

今回ご紹介したシミュレータは…


MW75 骨盤臓器脱(子宮脱)モデル Utena

シミュレータやSP に装着して、机上に置いて、子宮脱の病態~子宮脱の整復~ペッサリーの装着を実演することができます。月経カップの着脱練習にも。

[画像 サリー先生]

この記事のリポーター


サリー先生

『骨盤臓器脱がわかる本』に登場する骨盤臓器脱ケアの妖精。
人間に化けて啓蒙活動を行うこともあるが、それは仮の姿。



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