- シミュレーション教育
- OSCE
- 助産学・母性看護学
「未来をきり拓くのは“創造的な看護力”」
日本看護学教育学会 第33回学術集会
共催セミナーレポート DAY1
-助産学・母性看護学-
ご覧いただきありがとうございます。京都科学 企画課のアラハタでございます。今回は、日本看護学教育学会 第33回学術集会より、共催セミナーの内容をレポートとしてまとめました。
前編として、「助産学・母性看護学」をテーマに、同志社女子大学の和泉美枝先生と福岡女学院看護大学の谷口初美先生が発表された内容をご紹介します。
*この記事は「看護師等養成所 教材カタログ2024年度版」に掲載の記事をWEB用に書き起こしたものです。
日本看護学教育学会 共催セミナーレポート DAY1
「母性看護学シミュレーション学修と助産学OSCE」
同志社女子大学 看護学部 看護学科 和泉美枝先生
和泉先生が実践している助産学OSCEの特徴は、
和泉先生
① 同一事例をもちいて妊娠期・分娩期それぞれのOSCEを設定すること
② それを2日間続けて実施すること
こうすることで、妊娠期~分娩期にかけた継続的なカリキュラムが成り立ちます。
ここでは、和泉先生が実践している助産学OSCEの一例として、「妊娠・分娩経過が正常な経産婦」を想定して行われたシナリオをご紹介します。
妊娠期~分娩期までを一貫して学ぶ
助産学OSCEの一例
1日目は妊娠期OSCEです。妊娠39週5日の経産婦が来院する場面から始まり、学生は妊婦健診の実施および助産診断書の記述を行います。後日、経産婦から「陣痛が始まったかもしれない」という電話連絡を受けるところまでが1日目妊娠期OSCEのシナリオです。
2日目の分娩期OSCEは、その経産婦が来院する場面から始まり、分娩第1期のケア、そして分娩第2~3期のケアを通しで実施します。この際に、和泉先生は 周産期全身シミュレータ “Konoha”を活用してくださっているとのことでした。
この助産学OSCEは、妊娠期58分、分娩期100分のプログラムになっています。
シミュレーション学修・OSCEの肝とは?
シミュレーション学修・OSCEは事前準備が肝で、3つに分けて考えられます。課題や運営マニュアルの「作成」と、評価者や模擬患者への「教育」、そして人員や物品等に関わる「会場設営」です。なかでも、和泉先生は“課題作成”に力を入れているということで、今回はこの課題作成をツーステップでご紹介します!
ステップその①「習得してもらいたい実践能力を明確にする」
ここで大事なのは、学生は何を学んでいて何を学んでいないのか、“既修と未修”を洗い出すことです。
ステップその②「目標設定」
目標を考える際は、次の3つを心がけることが大切です。
- 誰からみても単純明快
- 評価が可能
- 学生から見て達成可能だと思えるもの
和泉先生
あらかじめ既修と未修を把握して現在の習得度を明らかにするからこそ、的確な学修課題を作り出せるのです!
また、学生にとって臨床場面を想像できる課題はモチベーションアップにもつながります。物品や費用、時間の確保はできる範囲で無理をせず、続けられるシミュレーション学修・OSCEを目指しましょう。
「助産学・母性看護学におけるシミュレーション教育のいま、そして今後」
福岡女学院看護大学 副学長/学部長 谷口初美先生
シミュレーション学修とOSCEの違い
シミュレーション学修とOSCE。混同されがちなこの2つですが、その役割や考え方は明確に分かれています。
シミュレーション学修は学修プロセスの1つで、主体は学修者にあります。失敗が許されていることや評価されないこと、学生自らが振りかえり・気づきを得られることから、シミュレーション学修は“学修者支援型の教育”とも考えられます。
一方、OSCEの主体は教員です。評価者間で優劣の差を出さないために厳格な評価項目・基準が設けられています。ですから、それに沿って学修効果や臨床技術の到達度を客観的に評価しなければなりません。
谷口先生
これらをまとめると、シミュレーション学修は失敗が許される環境で楽しくかつ学修モチベーションを向上させることができる学びのプロセス。OSCEはコントロールされた環境での最終技能レベルの評価といえます。
この2つを交互に何度も繰り返し行うことで、高い学修能力と習得度が得られるのです。
母性看護学のシミュレーション学修 -福岡女学院看護大学にて-
「3教室をZoomでつなぐリアルタイム学修」
ここで、福岡女学院看護大学にて実際に行われているシミュレーション学修をご紹介します。
およそ110名の学生を5人1ずつにグループ分け。ある1つのグループが演習している間、その他のグループは別室からZoomを介して演習の様子を確認し、同時進行でデブリーフィングを行う方式です。
演習するグループのうち、実際に診察等を行う実施者は1名です。残りのグループメンバーは診察の手順やどんな声掛けをしたら良いのかといったポイントをホワイトボードにひたすら書き込んでいき、実施者をサポートします。
この同タイミングで、別室にいる他グループの学生達はモニターに映し出される演習風景を見つつ、デブリーフィングポイントを洗い出していきます。
そして、デブリーフィングの際は、「こんなところがすごく良かった!」といったポジティブクリティークから始めることが一番のポイントです。ポジティブな評価を伝えてから改善点を伝えると実施者もモチベーションが下がらず、「もう一回やってみようか!」という誘いにも前向きに応じてくれます。
最後にお伝えするのは、「教育の質を担保することと、どの臨床現場でも一定の水準で指導を行えるようにすることが大切」ということです。谷口先生には高い技術力を持った看護師育成にこの2つが欠かせないという想いがあります。
谷口先生
講義→シミュレーション学修→CBT→OSCEを経て臨床に出るといった「システム構成」を看護師教育にも確立したいです。
次回はDAY2
テーマは「小児看護学」
最後までご覧いただきありがとうございました。助産学・母性看護学をテーマに「実践的なシミュレーション教育とOSCE」としてレポートにまとめましたが、いかがだったでしょうか。
この続編として、次回は「日本看護学教育学会 共催セミナーレポート DAY2」と題し、小児看護学をテーマにしたご発表をレポートとしてお届けいたします!