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救急救命士のための超音波検査セミナー in 岡山
~デジタル田園健康特区としての挑戦~


こんにちは、web管理担当のウエハラです。人口減少や少子高齢化などにより、特に地方部で問題となっている へき地医療。この難問解決に取り組むべく、先日、岡山大学で救急救命士を対象とした超音波検査セミナーが実施されました。超音波ファントムのメーカーとして京都科学も参加してまいりましたので、ご紹介いたします。

~以下レポート~

2022年 12 月、岡山大学内にある “MUSCAT CUBE”に、28 名の現役救急救命士が集まった。国家戦略特別区域(デジタル田園健康特区)の取り組みの一環として、「救急医療における救急救命士の役割拡大」に向けた実証を行うためである。
今回は、腹腔内出血の超音波検査について講義と技術演習が実施された。

岡山マスカットキューブ

開催概要

吉備中央町(岡山県)には総合病院がなく、重症患者の多くは30分以上かけて岡山市内の病院に搬送されている。「デジタル田園健康特区」事業では搬送時間を有効活用するため、救急救命士が、現在は法律で認められていない超音波検査などを救急車内で実施できるよう救急救命士の役割を拡大し、病院到着後の適切な処置につなげることを目指している。

2022年3月に行われた第1回の実証実験では、山間部に位置する吉備中央町から岡山市内にある岡山大学病院に患者を救急搬送するシナリオを想定して、実際にドクターカーを走行しながらエコー画像転送の技術的な検証を行った。

そして第2回である今回は、「救急救命士の超音波検査技術の習得」を目的として、VRを用いた講義とファントムを活用したエコーの実技指導を実施。救急救命科と産科婦人科の医師が、業務の合間を縫って指導にあたった。

ドクターカー内部

第1回実証実験の様子:ドクターカー内部

岡山大学の取り組み

岡山大学は、2021年1月より岡山県吉備中央町が掲げる「吉備高原都市スーパーシティ構想」(住民がワクワクしながら安心・安全に生活できる未来型シティの創出)の推進協議会にリードアーキテクトとして参画し、構想立案の中核を担っている。

岡山大学の取り組み

デジタル田園健康特区とは?

デジタル技術の活用によって、人口減少、少子高齢化など、特に地方部で問題となっている課題に焦点を当て、地域の課題解決の先駆モデルを目指す取り組み。2022年には岡山県吉備中央町とともに、石川県加賀市、長野県茅野市が選出された。


山々に囲まれた吉備中央町(吉備高原都市ライブカメラより)

当日の流れ

1|講義

受講者は超音波の基礎知識やFASTの手順などの講義を受けた。デジタルを用いた教育の実証のため、同じ内容をVR 映像と2D 動画の2 グループに分けて実施された。

講義

左:VR                       右:2D 動画


2|実技 
  FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)

講義後、ファントムを用いた FAST の演習が実施された。救急救命士数名に対して医師 1 名が付き、超音波装置の使用方法や、プローブのあて方など、描出される画像に解説を加えながら丁寧な指導が進められた。FAST の観察項目をクリアできれば次の参加者にバトンタッチ…初めはプローブ走査に戸惑っていた参加者も、熱心な指導により短時間でコツを掴んだ。最終的には、1 分以内に観察を終えられるようになっていき、「おぉ~」という歓声が上がる様子も見られた。

  • 演習内容
    1. 超音波プローブの使い方
    2. 超音波ファントムの特性の説明
    3. 超音波画像の調整方法
    4. ファントムを使った画像描出
    実技の内容
  • 結果
    参加者は、超音波装置に触れること自体が初めてだったが、トレーニングを重ねる中で、安定したプローブの持ち方・走査を習得した。

実技のようす

参加者の声

[画像:男性アイコン]

「( 超音波装置は) 普段使わない機材なので見慣れない所もありましたが、治療につながる有用なものだと感じました。」

[画像:女性アイコン]

「普段、ドクターが超音波装置を使って何をどのように見ているかがわかりました。」

という声が聞かれた。

主催の先生方から

中尾 篤典 先生

岡山大学学術研究院医歯薬学域 救命救急・災害医学講座 主任教授

中尾先生

「腹腔内出血が30 分早く分かれば、医師はオペや輸血の準備など(患者到着までに)できることが増えます。現在、救急救命士の特定行為として血糖を測ったりルートをとったりすることが、当たり前の時代になりましたが、20 年前は想像もできなかったわけです。同様に、今回のセミナーが大きなステップとなることを願っています。」


上田 浩平 先生

岡山大学学術研究院医歯薬学域 地域救急・災害医療学講座 助教

上田先生

「今回のセミナーでは当事業の検証を行うだけでなく、日頃医師は何を見て超音波で何を判断しているのか知ってもらうことで、連携がとりやすくなることを期待しています。今後の事業では、(画像転送技術を用いて)医師と救急救命士双方の目で陽性かどうかを確認できる体勢をつくりたいと思っています。」



牧 尉太 先生

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 産科・婦人科学教室 助教
吉備中央町デジタル田園都市推進協議会アーキテクト(医療・介護・統括アーキテクト補佐)

牧先生

「吉備中央町のような課題を抱えた地域は全国に多数存在しています。本特区での検証や教育方法の構築を通して医師の遠隔指導下での救急救命士による超音波検査の有効性を検討し、医師の不足や偏在に悩む地域の救急医療体制を強化できるよう力を尽くしたいです。」


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[画像 FAST/ER FAN]

今回使用した超音波ファントムは…


US-5 
外傷・救急用超音波診断トレーニングファントム FAST/ER FAN

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