- シミュレーション
- 医学教育学会
第55回日本医学教育学会大会
共催セミナーレポート②
第55回日本医学教育学会大会 共催セミナーレポート
2023年7月29日、第55回日本医学教育学会大会にて、共催セミナーを開催いたしました。
中津川市地域総合医療センター/愛知医科大学医学教育センターの伴信太郎先生を座長に迎え、
関西医科大学教育センターの西屋克己先生と昭和大学医学部医学教育学講座の川原千香子先生に
シミュレーション教育についてご講演をしていただきました。
前回に続きまして、2回目は川原先生にご講演いただきました
診療参加型臨床実習の充実とシミュレーション教育をお届けいたします。
*この記事は「医学・歯学教育 教材カタログ2024年度版」に掲載の記事をWEB用に書き起こしたものです。
診療参加型臨床実習の充実とシミュレーション教育
主な講演内容
OSCEの公的化に伴う実習の充実
OSCEの公的化の目的は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保」。そこで、良い医師を作るべく診療参加型臨床実習のさらなる充実が図られることとなり、「医学生の質」を担保する必要が出てきました。
医学生には臨床実習で許容される【医行為の範囲】が決められていますが、練習なしに患者さんに実施することは出来ないものが多く、【医学生の要件】として「実際の患者に触れる前に、シミュレーション実習や医学生同士による実習を取り入れなければならない」とされています。
海外と異なり、日本では未だに医学生同士による実習が多く行われていますが、社会通念の変化から、それが通用しなくなってきており、シミュレータが必要な場面も増えると思われます。
シミュレーション教育の効果
臨床前教育において、シミュレーションには教育する側のプログラム(実施すること)と学生が実際に経験したこと(実施したこと)の間のギャップを埋める役割があると言われています。
また、手技だけでなく診察過程においてもシミュレーションを実施することで、学生は自信を持って実践に臨むことができると言われています。
さらに、事前学修や自己学修にシミュレータを使って練習をすることで、学生は患者の診察・鑑別診断・診断計画・治療計画を組み立てる能力を養うことができ、望ましい診察を実際の患者さんに行えるようになると思います。
ベッドサイドを離れる機会を得る、ということもシミュレーションの効果として挙げられます。「ベッドサイドを離れて練習する機会が学生の知識・技能の統合に役立ち、臨床実習の学生に最低限の技能や思考を保障する」と言われています。
愛知医科大学では、どの科においても、実習でシミュレーションセンターを使うことで、学生にシミュレーション教育が浸透し、学生同士で互いに教え学び合うピアティーチングの場が生まれています。また、事前に学生に評価票を渡しておくと、各自が自主的にシミュレータで練習をしにやってきます。
シミュレータを使用する練習の良い点は、間違ったり、うまくいかなくても、もう一回考え、トライできることです。安全な環境で学修できるので、積極的に活用してほしいと思います。
シミュレーション教育の今後の課題
COVID-19の流行により学修方法も変化を求められ、VRなどのICTが活用されています。反面、シミュレーションや体験学修などといった対面でなければできないものもたくさんあります。ウィズコロナにおいては、前者と後者を目的や必要に応じて適宜選択すると良いでしょう。
ただし、シミュレーション実習を取り入れた運営は課題が多いのも事実です。
OSCE公的化による課題数の増加や質の変化によって、シミュレータが必要となってきましたが、1大学で十分な数を所有することは困難です。補助金で購入したとしても、メンテナンス費用は大学負担となりますし、保管場所の確保も難しい要因の1つです。
また、指導者問題もあります。指導者は必ずしもシミュレータに精通しているわけではないので、シナリオ原案や作成に専念し、シミュレータの取り扱いや部屋の準備などは別の担当者を配置して任せるのが理想です。例えばハワイのシミュレーションセンターでは小規模でも、教員・オペレータ・ビジネス関係やシステム担当など、医師だけではなく豊富な人材がいますが、日本のシミュレーションセンターはそもそも人員が少ないのが現状です。
そこで、シミュレーション教育には多職種、特に医療分野以外の方々との連携が、今後必要になっていくと思います。学生同士の協働学修も含めた多職種連携をすることは、課題の多い中でもシミュレーション教育を進めていくヒントになると思います。
セミナーにご参加いただいた皆様、伴先生、西屋先生、川原先生、ありがとうございました。みなさまにとって、今後のヒントになれば幸いです。
SimSimWEBでは引き続き、シミュレーション教育についての情報をお知らせしていきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。