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シミュレーション教育 現場からのホンネ
日々、シミュレーションに関わっている現場からの声を、”ホンネ”としてダイレクトにお伝えします。 今回は、京都大学医学部附属病院 総合臨床研究・研修センターの伊藤先生と内藤先生にお話しいただきました。
―こちらは京都科学製品カタログ「新人看護職員研修教材カタログ 2018年度版」に載せきれなかったお話です。
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シミュレーション教育 現場からのホンネ
【前編】どのように「場」をつくるか?
【後編】「やってみる」「失敗した」を積み重ねて見出したコツ
※この記事です
【後編】 「やってみる」「失敗した」を積み重ねて見出したコツ
安心してもらうための『事前資料』
内藤 シミュレーションの事前課題(資料)、準備できれば大変よいことだと思います。事前課題を作る時間が無くて、臨床の指導者がついしてしまうことは、急変対応のシミュレーションを行うことが決まったときに 「今度急変対応の仕方を勉強してきてね。」と、漠然とした問いを出してしまうことです。
これでは勉強してくる範囲が広すぎるじゃないですか。何してきたら良いかわからない。でもこっち(指導者)がやりたいことは頭にあるんですよね。
そこで、事前学習の資料を作ったら、学習者に「今度の研修でこれやるし、これだけ勉強してきて。」「でも病棟の業務もあるから大変だろうし、ここだけ見てきてくれたらいい。」と、その部分をマーカーで囲ってあげます。するとそこだけ見てくる。
研修当日に資料を見てきていない人がいたら、「どうや、見てきたか。」と何気なく聞きます。見てきていない人はあからさまに表情で出るんですよ、固まるから。(笑)
この時は「大丈夫やで。見てきていない人もいるようだし、教えてあげて。」とチーム全体に言います。そうすると見てきた人にとっても、見てきたことをアウトプットする時間となります。それでOK。
事前課題の資料を使ってデブリーフィングもできます。「ショックの分類て、四つあったやん、何だっけ。」という質問にも、 「はい、事前課題の資料を出して。これ見ながら言って。」 と言うと安心してできる。これも、安心・安全の場づくりにつながりますね。
ホワイトボードは考えていることの『見える化』に使える
伊藤 ホワイトボードも結構使えると思っていて。ホワイトボードで書き出すというのは、ハイテクの時代にえっと思われるかもしれないですが、自分が書いてみると他の人に(自分の)考えていることがこうだ、とすぐわかるのですよ。僕自身も「使うの?」と思っていたのですが、意外と活用できるんです。
内藤 やっぱり空中でやり取りすると見える化ができないですよね。ホワイトボードに書き出すと、どのような情報を集めて、どのようにアセスメントを行い、どう判断するのか、その思考の一連が見える化ができます。そして、次ここやるって言うところを丸で囲ってあげるとゴールが明確になる。振り返りしながら進んでいくので2番手以降はカンペになる。「あれ見ながらやればいい。」 そうしたら安心してできる。
伊藤 気づいたことを言語化して、それを共有化していくことはとても大事な作業なんです。シミュレーションにおいては、むしろシミュレーション中そのものより、最初の導入と振り返りの時間というのが、大事になってくると思います。経験した体験が自分の中で腑に落ちる。できてもできなくても、こんなのがあったらまた来てみようかなと思ってくれる。そうでないと、失敗した・怒られちゃった・怖い・やりたくないとなりますよね。(笑) そういう意味ではシミュレーション教育というのは、懐が深いと言うか、奥が深い方略だと思います。
シナリオ設計を最優先で
内藤 学校の先生達が悩むというところでは、「人数が少ない中で、40人から70人教えなければいけないから、どうしたらいいですか。」と結構聞かれることがあります。私も、京大病院に入職した頃は、 1グループ8人多い時は10人でやっていたころもありましたが、もう無理。社会的手抜きも出てくる。それだけ人数がいると「別に、うちやらへんでもいいでしょ。」という風になってしまって。それは私の設計が悪くて、のめり込めるような、没頭できるような環境設定をしなかった。
伊藤 それは難しいね
内藤 いくつもグループを作って(グループの人数は減らして)課題はちゃんとたてて、それを共有しながら進めていくようなシナリオにすればできるんじゃないかなあと思っています。例えば、京大病院では少人数制で、多くても1グループ6人で行っています。
シナリオ設計に力をかける分、「事前課題は資料をコピーして切り貼りするだけで十分。時間をかけずにそこは割り切って。」と伝えています。そして、課題の量も大事です。量が多いと、お腹いっぱいになりますし、ネタバレになってしまうこともあるので。それと後でも良い資料もありますよね。振り返り中に渡す事後資料もOK なので。「ここは事前資料。」「ここは事後資料なので、振り返りの中で共有しよう。」と。事前資料と事後資料があると、とても喜ばれると思います。
時間別のシナリオプログラム
内藤 これは今後の希望なのですが、たとえば30分コース、60分コース、90分コースというように、時間別のシナリオプログラムがパッケージになっているといいなと思っています。どうしても、「シナリオは全部しなければならない。」という呪縛がありますよね。以前、受講生が「(他者が作成したシナリオを持ってきて)先生、これ時間内に終わらないんですよ。」と言っておられて。内容を確認したのですが、それはすべてやろうと思うと3時間はかかるようなものでした。
本当はその中から「今日はここまで。」というのを引き算して考えられれば良いのですが、そこまで考えている時間が足りないというのが現場なので。30分コースならこれにしてください、60分コースにするならこれにしてください、90分ならこれができますよ、というところまでプログラムがパッケージ化してあれば、もっと現場は使いやすいかもしれませんね。
2回に渡って、『シミュレーション教育 現場からのホンネ』をお伝えいたしました。
シミュレーション教育をする上で大切なことや、明日からのシミュレーション教育で早速使っていけそうなアイデアなど、たくさんのヒントが詰まった内容となりました。
この度は伊藤先生、内藤先生、本当にありがとうございました。
シミュレーション教育の効果を高める ファシリテーター Skills&Tips
伊藤先生、内藤先生はこれまでの実践をもとに「シミュレーション教育の効果を高める ファシリテーターSkills & Tips」を出版されています。
シミュレーション教育に関わる方なら、持っていたい一冊です。ぜひお手に取ってみてください。
伊藤 和史 先生
京都大学医学部附属病院 総合臨床教育・研修センター 特定教授
1983年卒、総合内科専門医、循環器学会専門医など多数。大阪府済生会中津病院臨床教育部長などを経て2013年京都大学医学部医学教育推進センター特定准教授に就任。2018 年4月より現職。
内藤 知佐子 先生
京都大学医学部附属病院 総合臨床教育・研修センター 助教
1999年国際医療福祉大学保健学部看護学科卒業。2008年新潟県立看護大学大学院看護学修士課程修了。同年より京都大学医学部附属病院看護部管理室に勤務し、教育担当に。2010年より現職。